事件は起こった

ついに事件は起きた。

風Tを着た人に出会ったのだ。

 

昨日のバイト中、黒のジャケットの下に黒のLASA Tを着こんだ紳士が奥様と思われる女性を伴って来店した。

日常で初めての風グッズ遭遇である。

 

LIVE遠征時には、往復の交通機関や会場周辺でいくらでも見かけるが、私の暮らす町で日常生活をしていて出くわすことは、今まで一度たりとなかったのだ。

Laatの帰りも、新幹線から在来線に乗り換えてずっと一緒のルートをたどって来たHEHNキャップの女性は、私の降りる駅の一つ手前駅でいなくなってしまった。

 

風Tを着て街中に出ても声をかけられたことなんてなくて、いつも、なんか期待はずれな空振り感的なものを抱いていた。

だから私は、風グッズを身に付けている人に出会ったら、絶対声をかけようと心に決めていたのだ。

 

私は一目で風Tを認識し、その人から目が離せなくなってしまった。

店内には他に十数人の客がいたが、狭い店内、しかも、かの人は、この辺りでは珍しいポークパイハットを召していたので、見失うことはなかった。

この辺で男がかぶってる帽子と言えば、野球帽か麦わら帽子、せいぜいニット帽かハンチングである。

かなりのオサレさん。

彼のジャケットの合間からは、LASAカラーをバックに風さんの横顔がはっきりくっきり見えていた。

それだけで私の心臓はバクバクした。

(あー、うまく接客するチャンスがめぐってきたら、さり気なく、自分も藤井風ファンだとお伝えしよう)と、おそらく顔を紅潮させておかしなテンションで仕事してた。

 

が、他の客に声をかけられて対応している間に、彼は店を出ていきそうになったので、私はあわてて目の前の客をさばいて、彼に駆け寄った。

そしてついに、「私も風さんの大ファンです」と伝えることができた。

反応は、本人よりも奥様の方が嬉しそうに笑顔で応えてくれたが、特に取り乱すこともなく無事に対面を終えた。

ほんの5秒程度。

 

はぁー、こんなにドキドキするんだ、と自分でも驚いた。

間違いなく私には、事件だった。

 

でもきっと、その時店内にいた他の誰一人、スタッフも客も、この出来事に気づかなかっただろう。